相談者:長男63歳(父88歳、母83歳)
状況
駐車場を所有している88歳の父は、アパートを複数もっています。子供は長男1名で母(83歳)も健在です。
父親はハウスメーカーからの勧めもあり相続対策として駐車場にアパートを建築する予定であり、アパート完成までの期間は1年弱と言われています。アパート家賃収入は父母の生活費に充てる予定で、父の他界後は母が引き継ぐ予定です。父も高齢のため、物忘れが徐々に出始めており、建物完成までの間に認知症が進み、判断能力が喪失した場合、完成後のアパートはどうなるのでしょうか?
何もしなかった場合
引渡までの間に認知症など判断能力が喪失した場合には、建築中の手続きの中断や最終的にアパートが完成した際の建物の引渡しや建物の登記、金融機関からの融資、新規入居者等への契約手続きに支障が出てくる可能性がある。
成年後見制度を使った場合
本人に資産があるため、親族が成年後見人になれず、司法書士、弁護士等の専門家が成年後見人になる可能性が高い。
本人にとって合理的な理由のある支出しか認められず、家族にとってメリットのある行為、例えば、将来の相続対策としてのアパートの建築等の財産の管理、運用、処分行為をすることができません。
父の他界後、母がアパートを相続する場合には、母と長男の間で遺産分割協議が必要であり、その際には、父と同じく母の判断能力と成年後見の問題が同様にでてくる可能性があります。
家族信託を使った場合
所有者である父を委託者、長男を受託者、そして利益(家賃)を受け取る権利は父とするため、受益者は父とし、駐車場を信託財産とする信託契約を締結。
(※この信託を組む場合には、事前に建築を担う建築会社やハウスメーカー、及び借入先の金融機関との相談が必要となります。)
委託者と受益者が父であり、名義だけを受託者である長男とする信託契約としているため、不動産取得税、贈与税や譲渡所得税などは発生しない。
建築の請負契約も受託者として長男が契約し、借入金の申し込みも受託者として長男が行う。アパートが完成するまでに仮に父が判断能力を失ったとしても、不動産の名義は受託者である長男のため、新築のアパートは信託財産として受託者長男の名義で登記や金融機関の手続き、その後の物件の管理を受託者である長男の権限で行うことが可能。
アパートからの家賃収入、借入金の返済などは全て受益者である父が取得、負担することになり、権利と名義を明確に分けることが可能。
信託契約書の中に、将来父が他界した場合に第二受益者として母が受益権(信託財産から発生する利益を得る権利)を承継すると定めておけば、別途遺言書を作成したり、相続発生後に遺産分割協議をしなくても、信託契約書で定めたとおりに母が受益権を承継し、母他界後は長男が残余の信託財産を取得する旨を信託契約書で定めておけば、長男が最終的に財産を承継することができる。